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ラグビーと剣道 #2

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ラグビーと剣道 #2

 排他主義心と表裏一帯を成す愛国心。僕にとって、これほど嫌なものはないのです。先のスコットランド戦で最も僕の心を打ったのは、自軍の敗戦を噛みしめつつ、日本チームの健闘を称える拍手を送りながら競技場を去ってゆくスコットランド選手たちの姿でした。僕みたいにセンチメンタルな人間にとっては、ゲームそのものよりも、そのようなちょっとした出来事のほうが痛く心を震わせるのです。それこそまさにノーサイド。ラグビーの神髄を見る思いがしたものです。

 さて、僕の友人で、カナダのラグビー・ナショナル・チームの選手だったジョンとい男がいます。身長二メートル、体重百二十キロを超える大男。僕が当時の愛車三菱パジェロに乗せると、日本車で初めてゆったりと座れる車に出会った言っていたものです。その彼に、ラグビーの試合で怪我をしない秘訣は何かと訊いてみたのです。

 彼曰く、それは「全力でぶつかることだ」と。怪我をするのはほとんどの場合、力を抜いたり、躊躇した時なのだそうです。僕は剣道の“残心”について説明しました。残心とは、文字通り、全力を出しきったあとに心を残すことを言います。宮本武蔵が小次郎との果し合いで、鉢巻を切り落とされたという有名なエピソードがありますね。この話が作者のでっち上げかどうかはわかりませんが、少なくとも、武蔵が“残心”について知っていたことは明らかでしょう。

 ともあれ、武蔵はこの残心をいっとき忘れて、倒れた小次郎に近づき、下から切り上げられたのです。剣道では、この残心をバケツの水に譬えてよく説明します。だらだらと水を零していけば水は完全になくなるが、一気にぶちまけると、バケツの底にわずかに水が残る。これが残心だと言うのです。

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もれ。要するに、残心とは、全力でプレーしない限り味わえるものではないということでしょう。カナダ人のジョンはこの説明に深くうなずき、よく理解できると言ったのです。僕は外国人との話し合いで、これほど理解し合えたのは初めてだと思ったものでした。ラグビーにはたぶん、日本の武士道精神に通じるものがあるのでしょう。僕がラグビーに惚れ込んでいるのも、それが理由なのかもしれませんね。

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山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

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