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僕の翻訳流儀―オリジナルを書くように訳す #1

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僕の翻訳流儀―オリジナルを書くように訳す #1

 先日、ある質問を受けた。一冊の本を訳し始めてから終えるまでのスケジューリングについて教えてくれ、と。その時は、僕には何も変わったことはないから、とお断りしたのだが、また別の方から同じような質問を受け、僕も恥を晒す決心をしたわけだ。

 何回も述べているように、僕は翻訳をやる場合とオリジナルを書く場合がほとんど同じなのだ。オリジナルを書く際の初めの頃は、最初の一行から最後の一行まで、だいたいの筋立てを考えてから書き出す。それは誰もがそうだろうと思っていたからだ。そしてこの作業は翻訳の場合とよく似ていた。辞書を片手に原文を読む。わからないところがあれば調べたり尋ねたりする。だから読み終えた時には、原文は僕の字で真っ黒になっていたりする。その本を後で読む機会があったりすると、当時の苦労が偲ばれて涙ぐんだりしたものだ。

 ところがそうしたのは最初の何冊かで、後は一読者になって初めから訳してゆくのである。僕の経験では、訳し終えてから女性の会話がおかしいと気づき、やり直したことが二度あるきりだ。僕はとにかく、このやり方が気に入っている。一度読んでしまった本をもう一度訳すということがどうにも我慢できないのである。一ページずつ繰ってゆくときの楽しみ、あれが無ければ翻訳は成り立たない、とまで考えていたのである。

 英語の原作と日本語訳文ーーこの二つが違っているのは当然だろうと思うのだが、いかがだろう? しかし最近の訳文は、どうやら、徹底的に原文をなぞって訳すようになったらしい。たとえば花の名前などをきちんと調べて洗い直すのだ。僕は道端に犬がいようと猫がいようとあまり関係ないと思うほうだからーーこれはもちろん、犬か猫の違いが本文と密接な関係を持っている場合は別だがーーこの原文優先主義(!)がどうにも受け入れがたいのである。

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山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

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