山本光伸の翻訳作品・著作➡ Amazon一覧

織本順吉のドキュメンタリー『老いてなお 花となる』①

  • URLをコピーしました!
目次

織本順吉のドキュメンタリー『老いてなお 花となる』①

 さて過日、NHK-BSで俳優織本順吉のドキュメンタリー、『老いてなお 花となる』を拝見しました。2日間、4時間余りの大作で、放送作家である娘の結美が、92歳で亡くなった父親織本の最晩年をフィルムに収めたものです。織本は名脇役として知られる俳優で、彼が画面に登場すると、一気にリアリティが増すようだったと記憶されている方も多いように思います。

 若い頃から柔道と相撲で鍛えてきた屈強な織本が90近くになり、一気に衰えを見せ始めます。まずセリフが覚えられません。自慢のセリフ暗記力が覚束なくなってきたのです。織本はそれこそ徹夜で暗記しようと勤めますが、覚える先から忘れていくのです。身体のほうも言うことを聞かなくなり、その苛立ちに奥さんと娘は振り回されます。 

 その姿をフィルムに納めたいという娘の頼みを、織本は快諾します。ナレーションも結美です。そして結美は繰り返し、自らの醜い老いをさらけ出すことを、父親はどうして承諾したのだろうと自問します。あのダンディな父親にそんなことがよくできたものだ、と。さらに、父親を被写体に選んだのは、俳優業にのめり込み、家庭を顧みなかった父への復讐だとも結美は呟くのです。

 また夜になって、自室で綿々と、思うに任せない己の身体の愚痴を零す織本に、奥さんが遂に怒りを爆発させるところが出てきます。奥さんの怒号がひびき渡ります。そしてしばらくたって、織本が奥さんに「ごめんな」と謝るとき、僕は自分自身の将来を見るような、何ともいえない壮絶な気分がしたものです。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

目次