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武道家との出会い ②

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武道家との出会い ②

 それからもう一人、札幌で古武道を教えているM氏がいます。彼曰く、古武道の最強は宝蔵院流の槍術なのだそうです。その槍術に相対する場合、勝ちを得る唯一の方法は「紅(くれない)一文字」と呼ばれる“秘術”だという。つまり、少しわかりにくいかもしれませんが、自分の胸に槍の穂先で一文字の傷を負うほどに見切らなければ、勝てないということなのです。

 この両者に共通しているのは、武術の真髄は「間合い」にあるということでしょう。この「間合い」さえ自分のものにできれば、百戦危うからずだとI君は言います。

 今日の柔道は組み手争いを嫌い、時には審判が組み手にこだわる選手を反則負けにすることすらあります。国際化するにつれて柔道が昔の輝きを失ってきたのは、まさに、この「間合い」を無視したことにあるのは疑いないところです。間合いを考えず、組み合ってから、あるいは掴み合ってから相手を投げ飛ばすことにのみ固執するのは、要するに、“技比べ、力比べ”に過ぎず、武道とは関係がないとしか思えませんね。

 古武道の技を、現在の介護の現場に生かす、というのも同断でしょう。面白いアイデアだし、なるほどそれで助かる人もたくさんいるかもしれない。しかし、それと武道とは本質的になんの関係もないのです。

武道家と呼ばれる人の多くは、良く言えば内省的であり、悪く言えば自分勝手です。つまりは、蟹が自分の甲羅に合わせてしか穴を掘らないように、自分が強くなればいいとしか考えない、お山の大将タイプの人が多いということです。

 例えば前述したI君は、かつて「国境なき医師団」に参加して世界の紛争地帯に出かけていたし、先ごろは大水害に見舞われたミャンマーの難民救済のために活躍していました。日本にいるときは、南の島で牛飼いをしたり観光客にスキューバダイビングを教えたりしているのです。

I君のような武道家であれば、僕は満腔の敬意を表明できます。彼に会うたびに、I君のような日本人のいることが誇らしく、またそのことに感謝したい気持ちになるのです。しかし一方で、今日の武道家の多くは、武道に秀でているかもしれないが、武士道に秀でているとは思えない。結論から言えば、僕は武道は好きだが、武道家は苦手(?)なのです。

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山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

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