山本光伸の翻訳作品・著作➡ Amazon一覧

武道から考える国防

  • URLをコピーしました!
目次

武道から考える国防

 ところでもう一つ、武道に関して言いたいことがあります。武道には“先(せん)の先”という言葉があるのをご存知でしょううか。これは基本的に剣道用語ですが、間合いと同じで、あらゆる武道の根幹を成す概念だと言っていいでしょう。

 これはつまり、相手の起こり頭を制することを言います。相手がいざ打ってこようとする瞬間を捉え、気合いなり剣先などで相手の動きを封じてしまうという、いわば“超絶技術”なのです。これをこちらが修得してしまえば、相手の機先を制することで喧嘩になったり戦になったりすることがありません。

 さて、先日のこと、中国を警戒しなくていいのかと問われたある評論家が、(日本は)やられたら初めてやり返せばいいでしょう、と答えました。僕はこれを聞いてびっくりしましたね。聴衆のなかから、その発言に大きな拍手が湧き起こったことにはもっとびっくりしたものです。

 自国を護るという根本的な問題が、この程度の認識でやり過ごされているのかと思うと、びっくりするのを通り越して、背筋が寒くなったのです。

 やられてからやり返すのを、剣道では“後の先”といいます。これは一対一の勝負で、しかもこちらが相当な実力を持っている場合にのみ通用することなのです。つまり、一発殴らせてから殴り返せば、裁判でも大目に見られるというやつですね。

 しかし国同士の“喧嘩”の場合、最初に殴ったほうが圧倒的に有利になります。ひょっとしたら、日本の真珠湾攻撃がその唯一の例外かもしれません。しかし、西欧列強はそのずっと前から我々を殴りつづけていたわけだし……。

 それはともかく、最初にやられた場合、いったいどの程度の被害を被るか、つまりどれほどの死傷者が出るか、その評論家は考えたことがあるんでしょうか。その挙げ句に、途方も無い数の人間が死ぬことになる。

 僕は、自国の防衛に関しても、武道で言うところの“先の先”が活用できないものかと真剣に考えています。これは、先手必勝の概念とは根本的に違います。イラクに侵攻したアメリカの例に見られように、世界の国々はこの“先手必勝”理論で動いています。それに対抗できるのが、この“先の先”理論なのです。何しろ、戦わずして勝つというのがその目的なのだから、いかにも日本に相応しいと思いませんか。

 そのためには、何が必要なのか、我々は何をしなければならないのか。戦争反対のデモをすれば平和が来る、あるいは平和に貢献していると思っているような幼稚な考えでは、日本はいつまで経っても平和にはなりません。それだけは断言してもいいでしょう。

 そろそろ真剣に、平和を維持するための自国の防衛という問題を、具体的かつ論理的にみんなで考えてみる頃合でしょう。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

山本光伸プロフィール

 札幌で出版社・柏艪舎と文芸翻訳家養成校・インターカレッジ札幌を経営しています。
 80歳で小説家デビューを機にブログをはじめました。
 ロバート・ラドラム『暗殺者』、アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮社)、ボブ・グリーン『デューティ』(光文社)他、訳書は200冊以上。

目次