山本光伸 翻訳教室 ③
ではついでにもう一つ、スティーヴン・キングの秀逸な短編『ウェディング・ギグ』(The Wedding Gig)の中に、次のような一節があります。この短編は、妹思いの愛すべき小悪党スコレィの、大いに愉快で、ちょっぴり切ない物語です。
He puffed on his pipe. It looked out of place in the middle of that yegg’s face. (中略) With the pipe he didn’t look like a bum. The pipe made him look sad and funny.
この下線部分の訳はどうなりますか。そのままに日本文にすれば、「パイプのおかげで、彼は哀しげで、そして滑稽に見える」くらいでしょうか。しかし似合わない、つまり滑稽に見えるとはすでにわかっていることで、ここでは同時に哀しげに見えることがミソなのでしょう。したがって、ここではsadとfunnyの順番を逆転させて翻訳する必要があるのです。
とまあ、いろいろ書いてきました。しかし本書はなにも翻訳家のための参考書ではないので、これでストップしましょう。翻訳という作業は真剣にやれば面白いかもしれない、そう思っていただければ最高ですね。またいずれ。
余談ですが、僕が教えている翻訳学校では生徒を募集しています。僕が若い時とは違い、翻訳家として“メシを食える”かどうかは何とも言えません。しかし僕から見れば“ロクでもない”翻訳家が大勢いるのも事実なのです。
僕のクラスで“優”を取れば、英語↔日本語に関してはもう大丈夫です(と思います!)。今は生徒さんが少ないですが、こういう時こそきちんと勉強すべきだと思います。どうぞ奮ってご参加ください。
スティーブン・キング『スケルトン・クルー〈1〉骸骨乗組員 』ー「ウェディング・ギグ」収録

